2007年11月・12月うめだ花月ザ・プラン9の劇
「マチビト」
作/松原佳奈
演出/鈴木つかさ
出演/ザ・プラン9 タフ計画
11月28日(水)に見に行きました。
松原佳奈さんも、タフ計画さんも、プラン9の本公演の舞台制作スタッフの方のようです。パンフレットに名前が載っています。
OP
しっとりとしたピアノ曲と共に幕が上がる。
久馬 灘儀 ギブ ゴエ 鈴木
↑舞台
↓客席
こんな感じで舞台上で一列に並ぶ5人。
5人とも、手には赤い表紙の本。
文庫本ほどの大きさで、それぞれ一人ずつ、本を読み上げる。
読み上げる順番は
ギブ→ゴエ→鈴木→灘儀→久馬
読み上げる大体の内容は、
一年前のクリスマスイブ、飛行機が海に墜落し、乗客は全員死亡した。
思いを果たせずに死んだ人間を不憫に思った神様は、乗客を生き返らせてやることにした。
でも、生き返っても、死んだ人間なのに思い人に会いに行っては、正体がバレてしまう。
神様は、問題ない、と言う。なぜなら、全くの別人となって蘇ることになるのだから。
たった10分の間だけ、生き返ることを許された乗客たち。
彼らは、自分ひとりだけが神様に願いを叶えてもらえたのだと思い、嬉々として一年経ったあの場所、空港へと向かう。
けれど、彼らが知るのは、自分も含めた乗客「全員」が死んでいる、という現実。
会いに行っても、会いたい人はもう、死んでいる…。
それは、クリスマスイブの日、神様がくれた、残酷なクリスマスプレゼント。
大体こんな感じ。
海に投げ出された乗客たちは、乗客全員が死亡した、という現実を知らないんです。
そして、自分が会いたい人は生きている、生きて、どこかで幸せでやっている…、と思いつつ、別人になってしまった自らの体で、思う人に会いに行く。
会って、確かめなければならないことがあるから。
あるカップルは、男はプロポーズの返事を聞きたくて生き返った。
女はプロポーズの返事がしたくて生き返った。
ところが、女のほうは、男の姿(鈴木さん)になってしまっている。
また、男のほうも(ゴエちゃん)、生きているときとは全く別人になっている自分の姿に、「気づいてくれるかな…?」と心配する。
無論、2人は気がつかない。
まさかお互い、2人とも死んでいて、別人の姿になっているなんて、考えもしていないのだから。
2人はお互いを探して空港のロビーを走り回り、ばったり出くわすものの、全く気がつかずにまた、探しに走る…。
この瞬間のギブソンさんのもの言いたげな表情が、目に焼きついて離れませんでした。
ギブソンさんは、乗客ではなく、死人でもない。
ただ、自分の友が好きな女性を好きになってしまい、女性には、友が海外へ行く飛行機の、嘘の時刻を教えた。
友はその飛行機の事故で死んだ。
その友に、謝りたい…。
そんな思いを持った彼は、右往左往して「待ち人」に会えない4人の、架け橋となる役目を負います。
ある親子は、
父親は30歳なのに、64歳の老人の姿(灘儀さん)になってしまった。
4歳のその息子は、ヒゲの生えたおじさん(久馬さん)になってしまった。
離婚して、息子の意見もロクに聞かず、無理やり息子を海外へ連れて行った父親は、息子に会って、確かめたい。
「本当に、お父さんでよかったのか?」
息子を探して、父親はあちこち巡るのだが、どうしても会えない。
…息子は、待っていた。
4人のうち、4歳の息子、たった1人だけが、別人になってしまった相手を、最初から「その人」だと、分かっていたのだった。
「お父さんが気づくまで、待ってる」
やがてカップルの2人は、男は偶然手に取った新聞の記事を読んで。
女はギブソンさんから、事故のことを知らされて。
「現実」を、知ってしまう。
探している人は、もう、この世にはいない。
舞台下手側が空港のロビー、舞台上手側が空港の喫煙室。
ロビーではゴエちゃんと久馬さん、灘儀さん。
喫煙室では鈴木さんとギブソンさん。
違う場所で、2つの会話がシンクロする。
「もう、分かってしまったから…」
自分が探している人は、もう死んでしまったのだ。
父親も、現実を知る。
それは、父親が息子の為だけに描いた絵本の内容を、久馬さんが知っていたから。
何も言わなくても、久馬さんは絵本のことを知っていた。
動かぬ証拠だった。
現実を、認めたくない。悩む父親のもとに、息子がやってきて、言う。
「お父さんと、一緒がいい」
女を引っ張ってロビーまでやってきたギブソンさん。
女は親子の2人の様子を見て、そして男ともう一度向き直る。
「僕と、ずっと一緒に居てください」
深々と頭を下げる男に、女は言った。
「海の底で、わたしたち、ずっと一緒なのね」
あの日、飛行機が墜落した、その時刻がやってきた。
そのとき、4人の姿は消え、空港のロビーにはギブソンさんがただひとり、残されていた。